大判例

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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)6564号・昭52年(ワ)6634号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】一本件保証に至るまでの経緯について<中略>

1 被告は、昭和五一年一一月一日大和ランドとの間で滋賀県愛知郡秦荘町所在のニュータウン近江の里分譲地について、同年ころ宝開発との間で京都府船井郡瑞穂町所在のみずほニュータウン分譲地について、それぞれ被告を売主、大和ランド又は宝開発を事業主とする販売提携契約を締結した。

2 被告は、顧客に販売する不動産の仕入れについて、商品残高を発生させないため、被告と顧客との間の売買契約が成立した後に事業主から仕入れるいわゆる売上仕入方式(総委託仕入方式)を採用していたが、右各提携契約においても右方式が採られた。そしてその契約の実際の運用は販売活動である物件説明、契約締結、集金業務等すべて大和ランド及び宝開発が行ない、販売した物件は中間省略登記により大和ランド又は宝開発から直接顧客に所有権移転登記手続を行なう、販売代金はすべて一旦被告へ入金され(顧客がローンを利用した場合には、被告との間にローン契約を締結しているローン会社から被告ヘローン金が振り込まれる。)被告はこれを不動産売上げとして計上し、これから五ないし一〇パーセントを控除した金額を大和ランド又は宝開発に対し土地仕入金として大部分を手形にて支払う、というものである。

3 被告は、既に昭和四八年から前記近江の里の分護地を右2と同じ方法で他の事業主と提携し販売していたが、その事業主が経営不振から造成工事を中止した。被告は、造成工事未完の土地を販売していたことから顧客から売主として青田売りの責任を追及される状態に陥り、造成事業を完遂すべく前記1のとおり大和ランドに前事業主の肩替わりをさせて販売提携契約を締結した。ところが、大和ランドも昭和五一年当時資金繰りに窮し、近江の里の事業の開始にも支障をきたす有様であつた。そこで、同社の代表取締役上松一義(以下上松という。)は、青田売りの苦情が被告に殺到すれば被告の社内において直接の担当責任者としての責任を問われる立場にあつた被告大阪店特需部長小野と謀り、前記2のように被告から大和ランドへ仕入代金が支払われる仕組を利用して、実際は買う意思のない第三者を買主に仕立てたうえで被告との間で売買契約が成立したように仮装し、もつて被告から大和ランドに手形を振り出させ、第三者が被告に土地代金として交付した手形(当然額面は被告振出手形よりも大きい。)を、大和ランドが決済するという方法で金融を得ることを繰り返した(いわゆる「仲間売り」)。

しかし結局のところ、繰り返し行われた仲間売りの手形決済等のため大和ランドの資金繰りは益々圧迫を受け、原告らからの高利借入金も増加するばかりであつた(大和ランドに対する原告又は同代表取締役個人からの融資は既に昭和四九年ころから始つていた。)。

小野は上松の要求に応じて仲間売りの相手方業者に対しては、特需部長の肩書で「大和ランドが支払いをなし得ない場合には、被告大阪店が当該土地を買取り、その代金をもつて支払う。」という趣旨の買付証明書を発行し、また昭和五二年六月二八日には原告から大和ランドに対する融資を得るため別紙(一)、(二)の覚書と題する書面を作成交付した。小野は既に昭和五一年一一月三〇日より後の原告の大和ランドに対する貸付の都度右書面と同種のものを多数作成交付していた。

4 被告と宝開発の販売提携した前記みずほの土地は水利の便がなく国土利用計画法の事前承認も受けられず、そのまま販売にかかることができないものであつたために元来財務内容が不良でみずほニュータウンの販売に社運をかけていた宝開発はたちまち経営に行き詰り昭和五一年末からは、原告やサンシン工業株式会社、柴橋商事株式会社からの高利借入金が急増し、同五二年春には倒産寸前の状態に陥つた。

宝開発が倒産すれば右3と全く同じように(みずほの土地も既に被告は昭和四八年から他の業者と提携して販売していた。)未造成地の青田売りの問題につき被告の社内において責任を問われることを危惧した小野は、宝開発の倒産を防止するために同社がみずほの土地を利用した仲間売りの操作を繰り返すことを容認し、宝開発の要求に応じて大和ランドと同様の買付証明書を発行し、また昭和五二年四月五日には原告から宝開発に対する融資を得るため別紙(三)の支払証明書と題する書面を作成対付した。小野は当時既に高利の金融業者から宝開発に対する融資につき右書面と同種のものを多数作成交付していた。

5 昭和五二年八月ころには宝開発の経営内容は極端に悪化し、倒産必至の状態に立ち至つた。宝開発が倒産すれば、前記仲間売り、買付証明書、支払証明書等に関する小野の責任が全て表面化することとなり、小野が特需部長の地位を降りれば大和ランドが従前どおりの販売提携の関係を続けて便宜を得ることも困難となることが予想された。宝開発の代表取締役池田昌弘も同社の前途に見切りをつけていた。そこで、大和ランドや宝開発と被告との提携を斡旋し大和ランドの顧問として同社に強い影響力を持つ中川栄吉(以下中川という。)を中心として関係者の間で、宝開発の倒産を避けるため同社の営業及びその債権債務を大和ランドに引き継ぐ方向で協議を重ね、その結果、同年八月三〇日、大和ランドが宝開発の債務約一七億八〇〇〇万円を重畳的に引受けかつ宝開発所有の不動産等の資産を約一〇億八〇〇〇万円と評価して大和ランドへ移転する旨の契約が締結された。ところで、右の契約書(甲第四二号証の二)には宝開発の原告に対する債務額が四億六九二〇万円と記載されており、また、小野は原告に対し同年八月三一日別紙(四)の宝開発(株)返済計画表と題する書面を作成、交付したが、右書面には宝開発の原告からの借入金総額が三億九六七〇万円と記載されている。

二保証契約に基づく請求について

1 <省略>

2 更に原告は表見代理をも主張するので、この点につき検討する。

<証拠>を総合すると、

(1)  本件保証の額面は合計七億四一七〇万円にのぼる巨額なものであること、(2) 別紙(一)ないし(四)の書面には、被告代表者や大阪店長の記名、押印はなく、小野が被告大阪店特需部長として署名、押印しているだけであつて、その印もいわゆる三文判にすぎず、業界一流の百貨店である被告が右(1)の如く巨額な保証を行う契約書類としてはあまりに不自然かつ、不合理なことが一見明白であること、(3) 右(2)のほか、別紙(一)ないし(四)の書面には保証の文言が記載されていないために、右各書面自体からは必ずしも保証意思が明確に表示されているとはいい難いものであつた(別紙(一)(二)の書面は単に覚書と題するものであり、別紙(四)の書面に至つては宝開発(株)返済計面表と題するに過ぎないものである。)にもかかわらず、原告は専門の金融業者でありながら、小野の言のみを鵜呑みにして、小野が権限に基づいて本件保証をしたものとして取り扱い、一方では、別紙(一)ないし(四)の各書面に確定日付を受けるという周倒、厳格な措置を講じ、あるいは小野に対し電話を掛け、小野を被告の代表として取り扱つていることを表明してこれを録音し、証拠の確保を図りながら、他方右権限の有無についての確認を小野の直属の上司である外販担当店次長なり、店長なりに、全くせず、かえつてこれを避けあるいは控えたと疑われること、(4) 小野は昭和五二年八月下旬原告の当時の代表取締役和田に対し別紙(四)の書面作成に先立つて店長印を貰うことは不可能ゆえ自分の印で了承してくれと述べていること、(5) 原告は昭和五一年一一月三〇日大和ランドとの間で、原告が信用組合大阪興銀から四億五〇〇〇万円を借り受けたうえ、これを大和ランドに貸し渡す旨の消費貸借契約を締結したが、右契約書には、大阪興銀からの右融資につき原告の保証人となることを承認可決する旨の大和ランドの取締役会の議事録が添付されており、原告は保証について取締役会の決議が必要となる場合があることを右取引例で熟知していたこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の状況下においては、金融業者である原告は、被告において巨額の債務保証をするにつき取締役会の決議を要し、その執行は代表取締役の権限とされている高度の可能性を認識していたのであるから、被告の営業関係の一部長(前掲乙第四四号証によれば当時被告大阪店内のみで二二名の部長職が置かれていたことが認められる。)にすぎない小野が真に代理権を有するかどうかについて、当然に疑いを差し挾むべきものであり、しかも、代理権の有無は、被告大阪店の店次長や店長に確認する一挙手一投足の労で容易に知りうべきことからであつたのであるから、その確認を怠つて(前記認定のとおりこれを避けた疑いすらある。)、たやすく小野に保証権限ありと信じたとしても、右信ずるにつき重大な過失があるといわなければならない。従つて、原告に正当理由ありとすることはできず、民法一一〇条に基く主張は理由がない。また右のとおり原告に重大な過失が認められるから民法一〇九条、商法二三条に基く主張も理由がない。

三被用者小野らの不法行為による使用者責任に基づく損害賠償について

仮に、原告主張のとおり小野が被告の職務執行にあたり本件保証行為をし、これを信用した原告が大和ランドらに融資し貸付額相当の損害を被つたとしても、さらにまた、仮に、原告主張のとおり被告大阪店長檜垣や同店次長寺村に買付証明書、支払保証書等の書類の回収義務、小野の監督義務、調査義務を怠つた過失があつたとしても、前記二1認定のとおり本件保証は小野の無権限行為であり、しかも前記二2認定の事情の下では本件保証が小野の職務権限内において適法に行われたものではないことを知らなかつたことにつき原告に重大な過失があるといわざるを得ないから、このような場合においては、小野らの不法行為を理由としても原告は被告に対し使用者責任を問うことはできないというべきである。

(林繁 上原理子 生島弘康)

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